#23画録

愛知県 旅の記録

【大人の自由研究①】刈谷市最後の個性?万燈祭モチーフの部屋に泊まる

7組の建築家がつむぐ、7色の物語。

名古屋駅から徒歩5分、新しく誕生した宿泊施設
「セブンストーリーズ(SEVEN STORIES)」。

8階建て各階1部屋のセブンストーリーズは、
7組の建築家がひと部屋ずつデザインを手掛けています。

ものづくりのまち、愛知の素材にインスピレーションを受けたデザインは、
旅へといざなうまなざしを、肌触りを、匂いを、味覚を、耳を刺激します。

〔オリジナルポストカードより〕

今回泊まってきました。
 

《目次》

 

セブンストーリーズとは

名駅徒歩5分の場所に、オシャレかつ
愛知県の市の個性をモチーフにした宿泊施設が出来たらしいんですよ。

HPをご覧頂くのが手っ取り早いと思うのでこちら↓をどうぞ。

楽しそうじゃないですか!?

元々クリエイティブで美意識の高そうな常滑のみならず、
小牧とか清須とか刈谷の部屋があるんですよ!

ちょっとマイナーな市にもスポットが当たっていて興味を持ちました。

自由研究をしよう!

セブンストーリーズさんの、
夏休み特別企画【夏休みの自由研究で宿泊無料】を発見。
〔詳細:セブンストーリーズ 夏休み特別企画を行います!

こちらの企画は、
「希望のお部屋に泊まって、モチーフになっている
地域・工芸・文化についてレポートを書くことで、宿泊代が無料になる」
というもの。

応募したところ見事宿泊できることになりました!
貴重な機会をありがとうございます。

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泊まらせて頂くことになったお部屋はこちら。

5F
都市の中で眠り、起きる | sleep and wake up in the city
〔モチーフ:刈谷市/万燈 – 竹・和紙〕

今回のブログはその自由研究と宿泊体験のまとめです。
 

刈谷市と万燈祭の研究

宿泊の前に、刈谷の誇る天下の奇祭「万燈祭」について調べましょう。

研究の動機

  1. 刈谷市に通勤していたことがあり、万燈祭を見に行ったことがあるため。
  2. 見た事はあっても万燈祭について知らない事が多いと感じたため。
  3. 強烈な個性を感じたことがない刈谷市の、魅力を再発見したいため。

詳しくは追って述べていきます。

刈谷市(かりやし)の概要

愛知県西三河地方の市です。人口約15万。
デンソー、アイシン、豊田自動織機を始め
トヨタグループの本社の数々が立地する企業城下町です。

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《地名の読み方について》※他県の方向け

何故かは分かりませんが
「"刈谷"のアクセントは間違えられるとすごく気になる!」
という愛知県の皆さん(刈谷市民じゃなくても)が本当に多いです。

地名の"かりや" はのっぺり読むのがポイントです。

"か" を高く言うと、
「他県から来られた方ですね!ようこそ」とすぐバレます。

しつこく "りや" と言うと
「やめてゾワゾワする」とまで言われる可能性もあります。

覚えていたらぜひ気を付けてあげてください。
 

博物館を訪ねる

お祭りのことを知るためにやってきました「刈谷市歴史博物館」。
刈谷城址の"亀城公園"の近くにあります。

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こちらの博物館は観覧料も駐車場も無料。
2019年にオープンした新しくて綺麗な博物館です。

刈谷って市バスも無料だし駅の駐輪場も無料だしすごい。

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「お祭りひろば」という展示室で、刈谷の祭りについて知ることが出来ます。
上映している映像以外は基本撮影OK。ありがたい。

万燈(まんど)について

そもそも万燈って何でしょうね?

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簡単にまとめると、万燈(まんど)とは
竹と和紙で作った張子人形を色鮮やかに彩色したもの。

若衆が一人で担ぎ、舞を奉納する。

つまり、この「万燈」が出る祭りだから
「万燈祭(まんどまつり)」という名前なんですね。

ポイントとしては、毎年各町が新作の万燈を製作するため
祭りに出てくる万燈たちは毎年異なるということです。
これ、よく考えたらかなりすごいですね。

博物館には4つの万燈が代表で展示されています。
下記にて紹介します。

万燈の紹介①「五条大橋

京で千本の太刀を奪おうとする弁慶と、牛若丸(のちの源義経)が出会う場面。
弁慶は牛若丸に敗れ、以降忠臣として仕える。

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万燈の紹介②「日本武尊鳳凰

日本武尊(やまとたけるのみこと)は日本古代史上の英雄。
伊勢神宮天叢雲剣(草薙剣)を受け、野火の難を払う。
鳳凰は伝説の霊鳥。古来より、めでたいしるしとされる。

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万燈の紹介③「渡辺綱 大江山にて虎熊童子を討つ」

渡辺綱源頼光に仕えた平安時代の武将。
京の大江山を本拠とした酒呑童子とその配下・虎熊童子らを退治した。

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万燈の紹介④「浮世八景ノ内木下川の夜の雨」

三代目歌川豊国の浮世絵を下敷きとしている。
もとは四世鶴屋南北阿国御前化粧鏡』の鯉づかみの場面か。*1

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こちら、担いでみたい方は担ぐことが出来ます。
看板の解説に従って、決まった持ち方で担いでみてください。

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ただし、実際やってみて分かったんですがめちゃくちゃ重いです。

重いんだろうな~とはぼんやり思ってましたが、
私は1ミリも浮かせられませんでした。

己の非力さを実感させてくれる万燈かつぎ体験、おすすめです。
※チャレンジの際は、体を傷めないよう気を付けてくださいね。

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後ろから見た図。でかい。
お祭り当日は、この重量のある万燈を若衆一人で担ぎます。

万燈を改めて眺めてみた感想

万燈の紹介文に「役者絵などから題材を決め、
全体のバランスや重心を考えながら製作します。」とあります。

この部分、正直言うと最初読んだ時は
「ふーんそうなんだ」ぐらいの感想でした。

しかし、改めて展示されている万燈を見ると、
どの角度から眺めても立体的でかっこよさがあり、
こんなに大きな立体物を生み出せる
発想力、知識、技術に感心してしまいました。

五条大橋」を例に言うと、

  • 弁慶の薙刀と左足がこちらへ飛び出してくるような臨場感
  • 牛若丸の左足が薙刀の柄を越えて手前に来ていることによる立体感

この辺りが本当に素晴らしいです。

しかも万燈は若衆が一人で担ぐものなので、
かっこいいだけでなく、重心がちゃんとしていて
担ぐ時に困らないよう考えられているんですね。

夏の夜の暗さの中で、万燈の灯りは綺麗に映えますが、
見映えの裏に並々ならぬ技術力が詰まっているのを感じました。
 

《要望》

万燈の製作工程を、市HP等でもっと詳しく紹介して欲しいです。
(概略は展示場内のスライドショーで見られますが、更に詳しく知りたいです)

万燈の完成形や舞っている姿は様々なところで紹介されていますが、
祭り参加者以外の人間が製作段階について知ることが難しいように思います。

今回の研究以前、私は万燈祭に対して
「暑いし、観客はあんまりやることがない」という印象を持っていました。

これは、万燈の製作工程をあまり知らないが故の
「思い入れのなさ」が一つの原因かもしれません。

今回、万燈の魅力を知ったことで
「新作の万燈を近くで眺めてみたい」と思うようになり、
祭り自体にも興味が湧いてきました。

この素晴らしい技術力を、市内外にもっとPRすることで、
祭りに興味のある方が更に増えると思いました。
 

万燈祭 発祥の地を訪ねる

万燈祭は、こちらの「秋葉神社」の祭礼です。

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【万燈祭(まんどまつり)】

刈谷における「天下の奇祭」として、万燈祭があります。
高さ約5m、幅約3m、重さ約60kgにもおよぶ、
竹と紙で作った「万燈」を若衆1人で担ぎ、豪壮な姿を披露します。
また、万燈は街中を練り歩くだけでなく、秋葉神社の神前で舞を奉納します。

万燈祭はもともと、松秀寺(しょうしゅうじ/刈谷市銀座)の境内に建立された秋葉堂(現・秋葉神社)の祭礼でした。
刈谷町庄屋留帳」によると、安永7年(1778)の覚書に「前々通幡・烑灯・神樂仕度」とあり、これが万燈の初出と言われています。

秋葉神社で各町が舞い踊る祭礼であることから分かるように、
火難防除(火による災難を避けること)・町内安全を祈願する万燈祭は、
現在も刈谷市の代表的な夏の祭りです。

刈谷市歴史博物館 常設展展示解説シートより〕

↓ 神社境内にある解説も分かりやすかったので載せておきます。

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こぢんまりとした神社です。
神社の規模は関係なく、人々の祭りへの情熱が大切なんですね。

歴史博物館では、神社の境内で舞を奉納している映像も観ることが出来ます。

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神社周辺の道。街灯も万燈風味。

万燈通りを歩く

神社近くに「万燈通り」という道があるので散策してみましょう。

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万燈通り

この通りは、毎年7月最後の土・日曜日に開催される「万燈祭」の本楽で、
全町の「万燈」の舞が披露されることなどから、
愛称の公募により「万燈通り」と命名されました。

〔付近の案内板より〕

発見① 空中がすっきりしている

写真やストリートビューを見ると、何だか空がすっきりとして見えますね。

それは、電柱や電線がないからです!

万燈は高さ約5mにもおよぶので、電線が地中に埋めてあるんですね。
先ほどの神社周辺の道も、見返してみると電線がないのが分かります。

発見② タイルアートがすごい

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万燈通り、歩道のタイルの色合いがおしゃれだし
祭りのタイルアートが芸術的で感動してしまう。
クオリティが高い。

この万燈通りの至るところに万燈のタイルアートがあるので、
一部ですが紹介します。

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綺麗な着物を着た人物が天秤棒を担いでいます。
こちらの万燈が何をモチーフに作られたのか分かりませんでしたが、
奈良県の民話にある鯖売りのおじいさんの話が元かもしれません。

参考:大和をかし話 其ノ十五 ─ 東大寺<JR東海うましうるわし奈良>

 
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牛若丸と弁慶。
歴史博物館で見た「五条大橋」をもとに作られたタイルアートでしょうか。

「万燈」は元になった説話を知れると更に楽しいですね。
刈谷市さんにはぜひ過去の万燈のまとめも作って欲しいと感じました。

刈谷の個性とは?

研究の結びに、「刈谷の個性」について感じたことを述べます。

動機で記したように、刈谷市に対して
「淡々としていて激しさがなく、無機質で個性が薄い」
というイメージを持っていました。

刈谷のことを知っている方に印象を聞いても
大体同じようなイメージをお持ちだったりします。

至学館大学 石田芳弘先生によるエッセイに、下記の通りあります。

正直刈谷市には、財政が強く、トヨタ系の製造業を中心にした2次産業の町というイメージしかもっていなかった。
自治体が工場を誘致することは固定資産税が増え雇用が確保できるので、積極的に推進したい政策だ。
ところが、製造業の工場が増えると、一方町は人の結びつきが薄れ、何となく無機質になり面白味を失う。
刈谷市は、典型的な面白味を失った工業の町だと万燈祭を見るまで思っていた。

コミュニケーション研究所・日本の祭 | 至学館大学 至学館大学短期大学部
日本の祭エッセイ「22 刈谷万燈祭」より

刈谷って、三河の中で一番名古屋に近くて(みよしとかも近いけど)
刈谷駅周辺の雰囲気や、駅周辺の居酒屋のクオリティなどから
都会派の仲間入りをしたいのかな?と感じる時があります。

JRも名鉄も通っていて、名古屋との行き来もしやすい。
たくさんの大企業が立地していて、他地域からの人の流入も多い。
その中で、熱量というか、良い意味での田舎特有のアクというか、
そういったものがなくなりつつある町だと思っています。

その市のイメージとかなりギャップがあるのが、情熱的で荒々しい万燈祭です。
万燈祭は、クセやアクが消えつつあるあっさり風味の刈谷に残された
最後の個性の一つなんじゃないでしょうか?

私は刈谷のあっさり風味なところが好きでもあるので
「万燈祭の雰囲気こそが刈谷のまちの本質である」とは思いませんが、
尖っているあんちゃんやおねえさん達がきらりと輝く祭りの情熱も
ずっとこのまちに共存していて欲しいです。
 

話が変わりますが、石田先生がエッセイでおっしゃっている通り、
祭りにはデンソー・アイシン・自動織機からも万燈が出ています。

数年前、アイシンの本社付近を通った際にグラウンドで
万燈を担いで予行演習をしている風景を見かけたこともありました。

祭りでもトヨタ系の企業と深い関わりがあるところも刈谷市っぽくて好きです。
これもまた刈谷の個性の一つだと感じました。

 

今年2021年の万燈祭は 9月18日(土)、19日(日) 開催だそうです!

※コロナの状況を考慮しながら規模を決めるそうですので、
見学を検討されている方は公式のお知らせをご確認くださいね。

 
しかし、個人的には、空調がきいていて快適な歴史博物館で
いつでも万燈が楽しめることも推したいと思っています。
近くで見れるし落ち着いて写真も撮れるのでとてもいいですよ。

 

研究も一段落しましたので、セブンストーリーズに泊まりに行きましょう!
次回、宿泊体験記です。

 

>>続き

 

*1:①~④の解説:
刈谷市歴史博物館 常設展展示解説シートより